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サブアーバン・ブックストア (II)

この団地をいちど機上から眺めたことがある。自宅をジェット機から見たことのある人はあまりいないと思うが、これは偶然だ。

もう7、8年前のことになる。成田から北京へと向かうジャンボジェットだったのだが、ちょうど運よく窓際の席に当たったので、ガラスに顔をべったりとくっつけて眼下に広がる景色を見ていた。北京行きの飛行機は、成田を飛び立つと回れ右をして東京湾を横断する。そして東京都と神奈川県の境をなぞりながら西へと進んでいく。すなわち、多摩川の流れを河口から上流へとたどっていくということだ。

やがて、飛行機は多摩川右岸の多摩丘陵へとルートを変える。さいしょは灰色の構造物に埋め尽くされていた風景はしだいに緑がちになってくる。そして平野がいよいよ果て、機が関東山地へと突入しようとするまさにそのとき、見慣れた街が眼下に一瞬姿をあらわした。ついさっき出てきたばかりの自分の家も、はっきりと見て取ることができた。

やがて景色はいちめんの緑に塗り変わり、飛行機が本州の背骨を横切って日本海側に抜けるまでというもの、まとまった灰色は二度と見ることがなかった。団地はほんとうに関東平野の突端に位置していたのであり、空から見るとそれはまるで海にするどく突き出した岬のようであった。

つまりこの団地は、首都圏の宅地開発の大波がかろうじて届いた末端なのであった。これは同時に、わが国の人口が増加から減少へと転じ、ふたたび人びとの流れが都心へと回帰するとき、潮の引くがごとく、まっさきに人びとが消えていく場所であることを意味する。じじつ、小学校の同窓生たちの多くはいまや都心へと引っ越してしまった。都心に近いがゆえに、よけいにストロー効果が働いているともいえよう。

かつて隆盛を誇った都市が廃墟と化した例といえば、あの軍艦島を思い浮かべる人は少なくないはずだ。われらが団地はいうまでもなく、全国あちこちに存在するニュータウンや衛星都市の多くは、きっと数十年後に軍艦島と同様の姿をさらしているはずだ。悪夢のような想像だと感じるかもしれないが、わが国の人口は2050年には9200万人にまで減少すると予測されている。しかも大都市部ではご存じの通りのマンション建設ラッシュだ。都心部から遠ざかれば遠ざかるほど住居が余剰となるであろうことは火を見るよりも明らかだ。

とすれば、この団地に小さな本屋を開いたオヤジの覚悟は、潮の満ち干きのつかの間に、砂浜に一本の杭を突き立てるがごとき徒労だったのだろうか。

店じまいの日、友人が本屋を訪れると、オヤジは遠い目をして「君たちが子供を連れてくることを楽しみにしていたんだけどなあ」とつぶやいたそうだ。そして、店のバックヤードには、そんなオヤジの怨念を発するように、つい先日まで使われていた什器が山のように積み捨てられていたという。

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コメント

僕は2050年が楽しみですよ!

お返事遅くなってすみません。いまコメントに気づきました。私も人口減少は楽しみです。

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